吉原遊廓の音楽文化

~NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』放送開始に際して~

明けましておめでとございます。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

まさに私の研究「吉原遊廓の音楽文化」ともドンピシャに重なる内容となります。
初回の放送前から少々そわそわしている青木です(笑)

今回焦点があてられるのは、江戸中期に活躍した版元 蔦屋重三郎
私の研究は、江戸文学を通して吉原遊廓の音楽文化を探るというものですから、調査の中で何度彼の名前を目にしたことか。

彼は吉原遊廓で生まれ育ち、吉原を含めた江戸の社会に多大なる影響を及ぼした人でした。

蔦重の思い

「文学や浮世絵をはじめとするメディアが、江戸当時どのような機能を果たしたか」というのは、私の博士論文の重要なサブテーマでもありました。
私の研究自身の博士論文の一節を引用します。

作者たちの出生や生活環境
それまでの経験によって構築された性格や人柄
人間であるからこそ時に感情的な表現に傾倒し
揺れ動く統一性のない書きぶり

これは、江戸時代に執筆された様々な文学での書きぶりに対する私の所見です。
黄表紙・洒落本・随筆…など大変多くの種類が生まれた江戸文学ですが、そのどれにも作者ならではの「思い」が反映されています。
蔦重は、同時代を生きた多くの文人らのこうした「思い」を背負って、世に伝えようと奔走していたのだと思います。

そうした蔦重の姿がドラマでどのように描かれるのか本当に楽しみです。

『べらぼう』では、NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』やドラマ版『JIN-仁-』(原作:村上もとか先生)で脚本をご担当された、森下佳子先生が筆を執られています!

吉原の文化的側面

そして、やはり私が注目したいのは吉原の内部やお座敷で行われる様々な芸事についてです。


予告編を見る限り、8月に行われる年中行事「俄(滑稽なお芝居)」や、お座敷遊び「投扇興(扇子を投げ駒を倒す遊び)」、そしてお座敷での三味線をはじめとする楽器の奏楽シーンがあるようです!
(投扇興については、2024年10月20日のブログに書いておりますので、ぜひご覧ください!)
雅なお座敷遊びー投扇興 – 青木 慧

東京藝術大学での卒業論文・修士論文・博士論文と、吉原遊廓の音楽文化について一貫して研究してまいりましたが、そうした吉原での文化的側面に光が当たることは研究者としても大変嬉しく、歴史学習においてとても重要なことだと考えています。

私の研究では、「遊女」「芸者」「幇間(太鼓持ち・男芸者)」「客」をはじめ、吉原に出入りした全ての人々を「音楽文化の担い手」として捉えています。

「音楽をやる人といったら、芸者さん?」と思いがちですが、実際には、吉原のあらゆる人々が吉原の音楽文化を構築し近世邦楽の成熟に寄与していたのです。

吉原のオフシーンでは?

また、初回放映直前の特集番組では、蔦重の幼馴染である遊女花の井(五代目瀬川)を演じられる小芝風花さんが「営業中の遊女の姿だけでなく、オフのシーンも見どころ!」と仰っていました。
遊女や芸者による音楽は、当然、客をもてなす重要な業務のひとつでもありました。


しかしこの「オフシーン」ではどうだったのでしょうか。
遊女たちにとって業務以外での「音楽」とは一体どのような存在だったのでしょうか。

博士論文では、こうした「遊女や芸者の視点から見た音楽文化」を考える…ということを重要視しています。
この話はまた今度!

吉原という地の再考

吉原遊廓は、借金、性労働、病気、若くしての死…確かに、筆舌に尽くしがたい程の暗く辛い側面を有しています。

しかし、そこに生きる遊女自身にも楽しみがあったこと、そこで様々な近世文化が育まれていったこと、そうした側面も確かにあったことを忘れてはいけません。

その両面を真摯に受け止めること、それが吉原で懸命に生きた人々への真の敬意なのではないでしょうか。

さいごに

2025年は「吉原遊廓」という存在がこれまで以上に注目される1年となることでしょう!

この流れに乗り、私も自身の研究をどんどんアピールしていこうと思っています。
吉原の豊かな文化的側面の再考を目指して…!

また現在は、脚本を執筆させていただきましたオペラ『吉原炎上』(音楽:川崎絵都夫)の実現に向けても、話し合いが進められています。こちらもご注目くださいませ!

川崎絵都夫HP
川崎絵都夫|舞台や演奏会のための作曲を中心に、音楽理論の個人レッスンも行っている作曲家

2025年が、皆さまにとって素晴らしい1年となりますように。

青木 慧