安房直子の美味しそうな童話コレクション❺『あるジャム屋の話』

安房直子の美味しそうな童話コレクション❺『あるジャム屋の話』

近くのスーパーに売ってるジャムの瓶に、いい感じの水彩画でイチゴやオレンジ、ブルーベリーなどの描かれたジャムが売っています(このお話とは特に関係ないと思うんですが)。

 

水彩の果物が描かれたビン詰のジャム

その瓶を見ると、この『あるジャム屋の話』を思い出して、無性に「ああ!いま、食パンにジャムをこれでもかと塗りたくって食べたい!」と思ってしまい、衝動買いしてしまったりもします。

ちなみに、そのメーカーのジャムは普通の味です。たいして好みの味ではなく(わたしは果肉が少し残っていて甘すぎないジャムが好きなんですが、そのメーカーのジャムはゲル状で、ほとんど果肉は残っていなくてかなり甘いです)

「これじゃない…ああ、森野屋のジャムが食べたい…」
と思いながらモソモソと食パンを食べることになります。

「森野屋」とは、このお話に出てくるジャム屋の名前です。

架空のジャム屋さんなので、もし検索などをしたら同じ名前のメーカーのジャムが出てくるかも知れませんが、それはこのお話の森野屋のジャムではありません…。たぶん。

 

森の小屋で煮て作る『森野屋のジャム』

『あるジャム屋の話』は、ジャムを買って貰えず困っているジャム屋を、鹿の娘が助けてくれるというお話です。

以前、イラストを描いて紹介した『春の窓』と、少し構造が似ている物語だと思います。

森の中に作った小さな小屋で、主人公がジャムを煮て作っているんですが、300個も作ったジャムがひとつも売れずに困っています。

ジャムの甘い香りに森の鹿が誘われて…

そのジャム屋のせいで、森の中ではジャムのあまーい香りが漂っています。
なんとなくジブリ映画に出てきそうな、いいシチュエーションです。

映像作品だと、香りなどは想像がしづらいですが、本はより想像力が働くのがいいところです。完全に飯テロの一種だと思います。

その香りに思わず、森に住んでいる鹿がジャムやの留守中に小屋に入って、大きな鍋に残ったジャムをなめてしまいます…。

「大の男が、昼間っからジャムなんか煮て…」

『春の窓』よりも『あるジャム屋の話』の方が、より社会の冷たさを感じさせるシーンがあり、ジャム屋が困っている物語の前半は読んでいて胃がキリキリします。

主人公のジャム屋はもともと、会社員勤めが性に合わなくて辞めた、という設定です。
周りの人々は最初は作ったジャムをあれこれ批評してくれるんですが、本格的にジャム屋を始めようとすると

「大の男が、昼間っからジャムなんか煮て…」

とか
「もう一度ちゃんと会社勤めに戻ってくれ」

と言い出すくだりは、いかにも現実にありそうな状況です。

そうかと思うと、鹿の娘が普通に紅茶を作ったり、人の言葉を喋るのを、ジャム屋は特に動揺もせず受け入れます。

また、このあと鹿の娘は森野屋の瓶詰めジャムのレッテルを描くことになるのですが、その絵の描写の文章はとてもきれいで、美しい幻想的な絵を想像させます。

そんな冷たい現実味と、童話特有の優しい幻想的な美しい描写が、ちぐはぐになることなく調和している物語です。

このお話も文庫版の『春の窓』に収録されているので、ぜひ手に取ってみてください。



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