安房直子の美味しそうな童話コレクション❸『海からの電話』砂の焼き菓子

安房直子の美味しそうな童話コレクション❸『海からの電話』砂の焼き菓子

松原さんという音楽を勉強している学生と、彼の買ったばかりのギターを壊してしまった小さなカニたちのお話です。

 

カニとの会話がユーモラスで楽しい童話

動物(カニ)が人の言葉を喋るメルヘンチックな童話ですが、この松原さんが「カニのくせに…」的な上から目線がセリフの端々に出ていて(ギターを壊されて怒っているのもあるんだろうけど)、それでカニの方もちょっとムッとしたりする、掛け合いがユーモラスで面白いです。

ある日、松原さんが新しく買ったギターを持って海に出かけたことが、事件のきっかけでした。

気持ちの良い海辺で、松原さんがうとうとしてほんの5分か10分ほど昼寝をしました。

目がさめると、買ったばかりの新品のギターの弦は、無残にも一本残らず全部ぶっちぎれていました。

 

何者かに弦を全部切られた新品のギター

とうぜん、思わず松原さんが
「だれだ! こんなことしたのは!」
と誰もいない浜辺で叫びます。
すると、足元から
「すみませんでした」
「ちょっとさわってみたかっただけなんです」
「こわすつもりなんか、ひとっつもなかったんです」

と、小さなたくさんの声が聞こえてきます。

よくよくギターのかげをみてみると、なんとそこに居たのは小さな真っ赤なカニの集団でした。
カニは全員手にハサミがついてるんで、ちょっと弾いてみたらギターの弦が切れてしまった、と言います。

 

「ギターを元どおりに直す」と言うカニたち

カニたちはギターを修理するので、元どおりに直ったら電話をすると言い出します。

松原さんは「カニが修理なんて…」と呆れますが、何とかかんとか、カニに言いくるめられて「そんならまあ、ためしに預けてみようか」となります。

すると、カニたちは「帰る前に、3時のお茶を召し上がっていってください」と言い出します。

カニたちが砂を掘り返すと、中から小さな小さな(たぶんカニに合わせたサイズの)ティーセットが出てきました。

カップには、ちゃんと受けざらがついていて、ポットもミルク入れも、砂糖つぼも、みんなおそろいの砂色なのです。おまけに、貝がらのおさらもあります。

それらの道具を、かわいた砂の上に、きれいにならべると、二、三匹が、どこからかみずをくんできました。さあ、それからカニたちは、おおそがしです。

カニがつくる小さな焼き菓子

お茶だけでもびっくりですが、カニたちはなんと、お茶請けのお菓子までも作りはじめます。

石でつくった小さなかまどに火をくべて、お湯を沸かす組がいるかと思うと、もうひとつの組は、砂をふるったり水を入れてこねたり、ちいさなめん棒で、のばしたしているのです。

それは、人間が、粉でお菓子をつくるのとそっくりでした。いいえ、人間の女の人がつくるのより、ずっと早くて、なんだかずっとあざやかなのでした。

みるみるうちに、たくさんのお菓子が焼きあがり、貝のおさらにのせられてゆくのを、松原さんは、目をまんまるにして見ていました。

その小さなお菓子は、星のかたちをしていたり船のかたちをしていたり、それから魚のかたちや、いかりのかたちをしているのでした。

松原さんが目を丸くしてその様子を眺めているうちに、焼きあがったクッキー(? )を、カニたちがいそいそと彼の前に、おちゃを添えて運んできました、

「どうぞ、ぽんと口に入れて、カリッとかんでみてください」
と給仕係のカニに言われ、お菓子をおそるおそる口に入れます。

口いっぱいにひろがる海のにおい。ふしぎな甘さと、さわやかさ。そして、さくさくと、かわいた歯ざわりーーー

このお菓子、一体全体、なにで出来ているのか分からないんですけど(砂をふるって水を入れてこねるとか書いてあるし…)、非常に、ものすごく、死ぬほどおいしそうです。「もう店を構えて販売してくれ…」と思わず心の中でつぶやきたくなります。

怒っていた松原さんも思わず「なるほど、よくできている。なかなかおいしいねえ」とつぶやきます。

さて、そんな訳でギターを海に預けた松原さんが、無事にギターを返してもらえたのかどうかは、ぜひ本を読んでもらいたいと思います。

では、今日もこれから絵を描くので、この辺で!



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