文房具好きあるある満載、串田孫一のおすすめエッセイ『文房具56話』

文房具好きあるある満載、串田孫一のおすすめエッセイ『文房具56話』

今回は挿絵が少ない一冊ですが、
文章が好きで紹介したいと思った本です。

 

『文房具56話』
串田孫一 著

文房具にまつわる随筆、
思い出などをまとめたエッセイ集。

目次を開くと、「帳面(ノート)」「鉛筆」
「ハサミ」「定規」「万年筆」
など、誰でも一度は使ったことのある
文房具の名前が並んでいます。

そして、学校や仕事場などで誰もが
経験していそうな文房具にまつわる小話、
いわゆる、あるある話が前半では多めに
出てきます。

それぞれの文房具にまつわる思い出などを
平易な文章で、淡々と綴られて行くのですが、
読んでいると何となくニヤニヤしてしまいます。

以前、本を出す時に、
出版社の、もうかなり歳の人が来られ、
割付の相談をした。

その時に彼は鞄の中から
セルロイドの筆入れを出した。
そこは物指だの、鉛筆、鋏の類が入っていたが、
使いかけの消ゴムもあった。

相談をしながら、割付用紙に鉛筆で線を引き、
引き損なえば消ゴムを使ってそれを消していた。

仕事を終わって帰っていったあとに、
消ゴムが転がっているのを見付け、
今度会う時に渡してあげようと思って
それを拾いあげると、子供がやるのと
同じような鉛筆による注射の痕があったし、
電話番号かもしれない数字が書いてあり、
さらにその裏側には、編集部に勤めている人が
モデルになったのか、
お嬢さんの横顔が描いてあった。

また、著者本人ならではの
文房具の使いこなし、
文房具との付き合い方を書いた
エピソードも混じっています。

串田孫一さんは昭和の随筆家、
詩人、哲学者です。
文庫本の著者紹介によると
1965年以来、自作のFM放送を
1500回まで毎週続けたとのこと。
著作のかたわら絵筆を持ち、
篆刻をし、なんとハープの演奏まで
されていたそうです。

2005年に亡くなられたそうですが、
その人生態度は今なお
多くの人を魅了してやみません。

そのため、今ではあまり使われなくなった
文房具の話が収録されているのが
良いなと思いました。

 今では見かけなくなった文房具の話が新鮮

「吸取紙」「鳩目パンチ」「ぶんまわし」
などは、わたしも一見して
何の道具かわかりませんでした。

「ぶん回し」はコンパスのことです。
わたしの祖母はハンガーのことを
まだ「えもんかけ」と呼んでいましたが、
「ぶんわまし」の言葉を
使っている人にに会ったことはないです。

吸取紙は、乾きが遅い万年筆のインクが
擦れないよう、乾かすのに使います。
わたしは実物を使ったことがないので
名前からの予想ですが文字の上に乗せて
インクを吸わせるのかと思います。

以前、学生街の神田や本郷では
広告のチラシ紙がほとんど
吸取紙だったそうです。
ふつうの紙だと、ちらっと見たら
捨てられてしまいますが、
吸取り紙であれば当時は重宝するので
ノートの間などに挟んで取っておかれ、
講義に飽きたりした時に何となく眺める…
そんな宣伝効果があったようです。

戦時中の貧相な文房具

後半に進むにつれ
少し戦時中に物品の供給が
無くなった時期の文房具の記述があり
「文化を守る力」という題で
戦時中の文房具について書いた章も
あります。

ちくま文庫から出ている文庫版の挿絵は
各章の間に、ぱっと見た感じ
内容と関係なさそうな
16世紀の版画が使われています。
よく見ると、何かの工房の図らしく
絵画を描いたり、
文房具を使って作業しています。



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